小川榮太郎、高橋源一郎、英雄アキレウス

f:id:toushitsufukei:20181020080523j:plain

古代ギリシア

文章を書くことがすきだった。でも、文とは無縁の人生。なぜかめぐりめぐって今はライターに。クラウドソーシング全盛の時代、そんな人は多いのではないでしょうか。私もそのうちのひとりです。

 

それは、舞台を変えれど小川榮太郎氏も同じなのかもしれない。LGBTを否定し、新潮45を休刊に追い込むほど差別的な論を展開した自称・文芸評論家。私も彼の書いた文章について何か書きたかったのですけれど、解釈がまとまりませんでした。

 

そんななか、昨日、作家の高橋源一郎さんの文章がウェブに出て、それを読んで思ったことを書きます。たんなる個人の感想ブログです。

 

 スポンサーリンク

産業医ラボ.com

 

文章は怖い

 

kangaeruhito.jp

 

まだ読んでないなら、ぜひこれを読んでみてください。簡単に内容を書くと、LGBT否定と差別的文章で世論の怒りを買い、掲載誌の『新潮45』を廃刊へとおいやり、それでも安倍政権にしがみついて生きる文芸評論家の著作を読める限りで読んだもの。そこにかつての文学青年の姿を読み取り、愛と挫折とそれでも生きていかなくてはならない物書きの悲哀を読者に突きつける悲しい文章です。

 

むきだしの暴力をふるってくる相手を抱きしめ、慈愛に満ちた文章で返すことができるでしょうか。そんな高橋さんもまた、つねに精神は分裂の危機にありながらも、あやういバランスをとりながら、文章を書き続けているのかもしれない、そういう哀しみが伝わってくるからこそ、わたしもまた涙せずにはいられないのでした。

 

小川榮太郎氏の立場で読んだ

 

しかし、これは言論の暴力に筆の暴力で返したものです。誰からも評価されなかった若き文学青年が年を取り、右よりの政権に取り立てられ、有名編集者に乗せられ、極右政治家の差別発言を擁護し、差別に差別を重ねて破滅する、そんな物語に仕立て上げられています。

 

私はこの文章を、小川氏の立場に立って読みました。誰からも評価されない若き日々。時代の波に乗って仕事を続けているけれど、未来はどうなるかわからない。でも、書いたものが残っている。その断片から、こんな悲しい物語に仕立て上げられ、同情をかけられてしまったら・・・恐ろしいです。

 

私がもし小川さんの立場だったら、批判されるより、筆を折るより辛い日々が待ち受けているかもしれません。まだ嘲笑ならいいでしょう。批判も一理あるでしょう。言論なら戦うこともできるでしょう。しかし、自分が敵とみなしているはずの文藝界から、こんな慈愛に満ちた文章を出されて抱きしめられてしまっては、それこそ物書きとして死よりもつらい日々がこれから待っていることでしょう。

 

なんて恐ろしい復讐なのだろう。高橋源一郎さんの書いたこの文章が、この物語が、小川氏を肉体の死以上の、物書きとしての死に追いやってしまったのです。

 

小川榮太郎、高橋源一郎、英雄アキレウス

 

高橋氏の文章構造。なにかで読んだことがあります。それはホメロスの『イリアス』のような気がします。

 

『イリアス』は古代の英雄アキレウスの冒険譚です。トロイア戦争の最後数日間を描いており、アキレウスの親友パトロクスがヘクトルに討たれ、死んでしまうシーンを主軸としています。そしてアキレウスは嘆き悲しみ、復讐を決意するのです。

 

アキレウスはヘクトルと一騎打ちします。しかしクライマックスはそこではないのです。ヘクトルを討ち取ってもアキレウスの怒りは収まらず、ヘクトルの遺体を引きずり回してやめない。狂気の姿です。その姿をみて、誰もが涙を流します。

 

そこに、ヘクトルの父プリアモスが現れ、彼もまた、子どもたちを戦争で失っていることを打ち明けるのです。アキレウスとプリアモスが共に愛するものを失った哀しみにくれるとき、争いこそ誰も幸せにしないことを聴衆につきつけ、物語は終わります。

 

何かとても似ていますね。読後感が素晴らしいので、未読ならぜひ。

 

 

 

文章とは書かれたもの、のこと

 

文学(literature)の語源は「書かれたもの」という意味。つまり、ホメロスも高橋源一郎も新潮45もブログもツイッターも、そしていたずらに人を傷つけ、ときに凄惨な事件を起こすはてなブックマークですらも、広義では文学なのです。

 

なんだか悲しくなりました。それでも書いて、生きていかなくてはならないのです。

 

 

 

文章は本当に怖いですね。人生の達人にかかれば、生き様、愛、そして挫折と矛盾と生きる哀しみすら、むき出しになってしまうのです。本当に読み応えのある評論でした。

 

▽文学はAudibleでも聞けるのでぜひ。月1,500円でプロの音声クオリティ。いまなら無料トライアル中なので。